突いた手で上段受け・外受け・内受け・下段払い、そして逆突き。この4（上段受け・外受け・内受け・下段払い）+1（突き）の動きを足を一歩進める間に行う。上段受け外受け内受け下段払い逆突き上段受け外受け内受け下段払い逆突き回って上段受け（最初に戻る）。一点を見つめブツブツと次の動作をつぶやきながら初期型ロボットのように動くわたしは第三者目線で見ると完全なホラーだと思う。ついでに超スローモーションでしか動けない。しかしこれが週一で稽古を始めて10ヶ月ほど経つわたしの空手能力の限界なのである。空手というと粗野なイメージがあるかもしれない。粗野な部分がないとは言わない。しかしあらゆる事柄に粗野な部分はある。粗野な人はどこにでもいるので実害をもろに受けないか避けられるかするなら多少致し方ないと思うほかない。空手。肉体と精神を使うのはもちろん脳みそも使う。上段受けをしながら次の外受けについて考える。外受けの動きを詳しく思い出す。気がつけば足の位置がおかしい。直している間にどっちの手で内受けをするのか分からなくなる。わたしは軽い運動や料理アイロンといった作業中、常にまるで別の心配ごとや考えごとを抱えている。しかし稽古中は他のことに注意を払えない。余所事を考えたり感じたりする暇はないのだ。唯一頭をよぎるとしたら「先生は何月にエアコン入れてくれるのかな？」。先生は寒いのが嫌いなの。その点を除けば空手の稽古はわたしの1週間の中で最も無心になれる最高のストレス解消である。 現在練習中の型は安三（ヤンツー）。ただでさえアホなのに動きが複雑すぎて毎回途中でフリーズする。家ではたと思いついておもむろに練習を始めるのだがいかんせん空手に全力中年状態に陥り周りが見えなくなる。先日は浴槽の外枠で内くるぶしを強打した。今は直系3cmほどの立派なあざになっている。なぜ風呂場なんかで練習を始めかな。痛みを伴わない人生などない。
